篠宮龍三.オフィシャルブログ One Ocean〜海はひとつ!

2007.10.12 Friday

ZONE

アスリートは極度の集中状態で普段と違う感覚に目覚めることがある。自分を俯瞰していたり、背後のものが見えたり、ものが光って見えたり、時間の感覚が伸縮したりするのだ。

スポーツ心理学の世界ではそれをフローまたはゾーンと呼び、さまざまな研究がなされている。
タイガー・ウッズはゾーンに入るとグリーンのカップがバケツほどの大きさに見えて、打つべきパットのラインが光って見えるという。また、マイケル・ジョーダンは現役時代、集中しているとリングがフラフープくらいの大きさに見えることがあったという。スピードスケートの清水裕保選手は世界記録を出すために滑るべきコーナーのラインが光って見えたそうだ。


時間の感覚も普通ではなくなるようである。
陸上100mの元世界記録保持者、ドノバン・ベイリーは、「走っている時には時間が信じられないほど伸びて無限のように感じられた」と語っている。
わずか10秒にも満たない世界なのにそこに無限と言えるほどの永い時間感覚があったというのだ!

一方、フリーダイビングでスタティックを行っているときはどうだろう。
自分の場合、調子がいいときは6分が3分くらいに感じられることがある。あっという間に時間がワープするように飛び去っていくのだ。
スタティックを行っているときは時間に対する解像度がグンと下がっているのだろう。
逆に何らかのアクシデントでヒヤリ、ハッとさせられた場合はどうか。例えば車にはねられて宙に浮いている時、きっとドノバン・ベイリーのような感覚が出てくるのではないか。
こういった場合では時間に対する解像度がグーンとあがり、通常で毎秒30コマくらいの解像度が毎秒120コマくらいに跳ね上がり、ハイスピードカメラでものを見ている感覚になるのではなかろうか。そしてどのような角度で地面に着地すればダメージを最小限に食い止める事が出来るのかを脳が高速で計算しているのだろう。

人体というのは物凄い知覚を秘めている。

そういえばプロ野球の世界で「ピッチャーの投げた球の縫い目が見えた」という選手がいたが、あながち嘘でもないような気がする。


普通の時間の感覚を超越した瞬間を生きる事はアスリートにとって最大の喜びのひとつなのかもしれない。





ではゾーンに入るにはどうしたらいいのだろうか。
それにはまず、「ああしなければ、こうしなければ」という自己を解放することから始まる。自分自身についてあれこれと思い煩わず、完全に活動に没入する事が必要なのである。活動と一体化することで自我意識から解放されるのだ。行為と認識を一致させる事が大切。
その状態になった時アスリートは無敵になる。対戦相手や結果や記録といったものから解放されると皮肉にも勝率が上るのである。これは自身何度も経験済みだ。(もちろん逆にエゴのせいで痛い目にもあっている)

リザルトよりもプロセスにフォーカスすることで最高のパフォーマンスが生まれ、最高の結果がついてくる。

そのためには「いま、ここ」を常に意識し、先のことや過去の事を考えない事が大事なのだ。いまこの一瞬の積み重ねがあってこそ未来がやってくる。コントロールできるのは「いま、ここ」だけ。
それは禅の教えに通じるところがあってとても興味深いところだ。それは頭ではなく身体で理解できる智慧。ニッポン人でよかったと思う。



いままでフリーダイビングの大深度潜水でゾーンの魅力を何度も経験している。自分が海とうまく調和できた時は不思議な感覚がやってくるのだ。海が自分を受け入れてくれ、グランブルーへの扉を開けてくれるのがわかるのだ。
それは“声”といってもいいかもしれない。なんとも奇妙な話だが、「オイデ」 「イクナライマダ」 「キテモイイヨ」 と海にいわれている気がしてくる。その声が聞こえてきたとき、どんなに波があっても流れがあっても絶対に失敗しない。そして決まって自己ベストやシーズンベストなどの好記録がヒットする。潜りながら、「受け入れてくれてありがとう!」と海への感謝の気持ちで一杯になる。



エジプト・コンスタント世界選手権へ向けた沖縄での調整も終盤に近づいている。体調、海況、気象は毎日違うが、その日できることに100%コミットできている。また、仲間たちも平日の忙しい合間を縫ってサポートを買って出てくれている。そんなありがたい環境のなか、-100mへの最終調整を行っている。

コンスタントで100mを越えるのはまさに“神の領域”に近づくことだ。

“神”といっても何か特定のカミサマを指すのではない。
言葉というのは人類の経験に基づいたいわば、「最大公約数」のようなものであり、陸上の経験がその大部分を占めていると思う。だから水中、とりわけ深い海での経験や感覚を言葉で表現するのは時に歯痒い思いを強いられる。だからといって理性を超えた対象に対して安易に“神”という言葉を繰り出してもいいかというと、そうではないだろう。

慎重に言葉を選びながら表現するなら、「人間技や人智を超えた次元」とでも言えようか。そこは不断の努力と、直感がものをいう世界。

1%でも自分を疑えばすぐさまストップだ。だから100%自分を信じきることだ。髪の先から足の爪の先まで60兆個の細胞を信念で満たすのだ!
100mのグランブルーは自分の信念が試される場所である。自分を疑ったがためにボトムまであと2,3mというところで耳がロックし、何度も辛酸を嘗めてきた。その2,3mの遠いことといったら!!!

そう、100m潜るという事はゾーンに入るということであり、逆に言えばゾーンに入れなければアクセス出来ない領域なのだ。


ゾーンに入れば全ては完璧に流れていく。フローと言われている所以だろう。Just Flow With it!
自我が消え、自分の身体は単なる乗り物となる。そしてオートパイロットで動いているように感じるのだ。寸分の無駄もなく、また失敗や成功の概念すらもなくなってしまう。
「やれる!」 「できる!」「がんばれ!!」といった内言も必要ない。
自分はそれが出来る事をただ「分かっている存在」になるため自分を鼓舞する必要がなくなるからだ。

そんなすばらしいフィーリングを深い海は授けてくれるのだ。

だからやめられない、そして海に感謝せずにはいられない。


BIG MAHALO TO THE OCEAN!














 

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プロフィール

篠宮龍三
篠宮 龍三.
しのみや りゅうぞう


フリーダイバー

AIDAマスターインストラクター

写真家



2004年 日本人初のプロ選手となる。

2005年 世界ランク1位入賞。(フリーイマージョン種目)

2005〜2007年 国際大会三年連続総合優勝(エジプト、フランス、エジプト)

2008年4月バハマにて、アジア人初の水深100mに到達。世界ランク2位入賞。(コンスタント種目)

2009年4月にはジャック・マイヨールの自己最高記録の水深105mに到達。同年12月には水深107mのアジア記録をマークし、マイヨール越えを達成。(コンスタント種目)

2010年4月にはバハマにて水深115mの現アジア記録を達成。(コンスタント種目)
同年7月は自らオーガナイザーとなり沖縄で世界選手権をアジア初開催。また日本代表キャプテンとして参加し、銀メダル獲得。

2013年5月カリビアンカップにて水深56mのコンスタントノーフィンのアジア記録更新。同年10月バリ大会にてコンスタント種目優勝。

2014年12月バハマ大会にて水深66mのコンスタントノーフィンのアジア記録更新(通算37個目のアジア記録)

2015年4月バハマ大会にて総合準優勝。アジア人男性初のメダル獲得。

国内初のプロ選手として国際大会を中心に参戦。2016年10月、18年間の競技生活に幕を閉じる。現在は沖縄でスクールや海外ツアー、大会等を運営する。

OneOceanを自身のメッセージに掲げ、海洋保護を訴えるイベントをプロデュースしている。

本の紹介
素潜り世界一
心のスイッチ
ブルー・ゾーン