篠宮龍三.オフィシャルブログ One Ocean〜海はひとつ!

2009.04.12 Sunday

Room #105



ジャック・マイヨールに憧れてフリーダイビングの世界に入りました。彼の持つ、思想、哲学そしてその表現力は実際にグランブルーを訪れた事のない人を魅了するのに十分すぎるほどのインパクトがありました。

「ジャックが感じた100mのグランブルー。一体どんな場所なんだろう、自分も実際に訪れて感じてみたい」

そう思い立ち、本格的にトレーニングを開始してもう10年になります。

あこがれだったジャックが最後にマークした105mという深さに実際に訪れてから1週間が過ぎました。世界記録がどれだけ更新されて引き離されても、自分にとって105は特別な数字になんら変わりはありません。とても重みのある記録です。練習で訪れた107mという深さよりも遥かに重みを持つ数字です。

ブルーホールの105mで感じた事を言葉で書き記すのはとても困難です。その体験があまりにも幸福感に満ちあふれた素晴らしいものであり、また自分のつたない文章力でその体験を表現するのはいささか心もとない気もします。しかし応援してくださった方々とその感覚を少しでも共有する事が出来ればと思います。

100mへ向かってブルーホールの中へ奥深く潜っていくと、光はだんだん失われてしだいに青い闇、そして完全な暗闇へと変わっていきます。直径20mほどのブルーホールの入り口ははるか遠くへと遠ざかり、水面とそこに浮かぶ人たちはとてもおぼろげな存在になっていきます。深く、濃い闇の中からその丸い入り口の水面を眺めていると漆黒の闇に浮かぶ地球を見ているような思いにとらわれます。青空、白雲、ちいさな人たち・・・まるで暗黒の中天に浮かぶ青い惑星。きっと月へと向かった宇宙飛行士たちもはるか遠くから地球をこんな風に眺めていたのだろうと、及ばずながらもこの身の内に感じました。

そして水深100mを超えると完全な静寂と暗闇に包まれます。この深く広がる闇は陸上の何をもってしても完全にその質感を再現することは不可能です。真の闇のなかで無限の空間と時間の広がりを感じずにいられません。この空間に身を浸して感じるものはまさに宇宙感覚といってよいでしょう。そしてボトムに到達しタグを引きちぎる瞬間は一瞬のなかに永遠を見るかのような体験です。わずかな時間のはずなのにとても長く感じられるのです。まるでスローモーションを見ているようでした。


競技ロープと手首は1mのセーフティーラニヤードでつながっています。ラニヤードはまるでへその緒です。自分と競技ロープ、そして深海と水面。自分はこのラニヤードをとても象徴的なものと捉えています。このラニヤードがなければ、また途中で切れてしまえば永遠に暗闇の中を漂い続けることになるでしょう。深い海の底ではすべての感覚と経験は本質的なものへ直感的に行き着きます。小さなものは見えず、本質が見えてきます。違いは単なる現象であり、本質とは同一性なのだと気づくのです。すべてはひとつにつながっているという思いに達します。すべての人とすべての自然とひとつにつながっているのだという思いが込み上げてくるのです。


105mはすべてが完璧にできた1本でした。水面、ボトム、そして水面。すべてのプロセスにおいてまったく邪魔な思考の入る余地がなく、調和を感じることができました。潜り終わったあとも心地よさが体に残っていてしばらく余韻を味わいました。心の底から幸福感を感じるダイブで、もうこれで終わりにしてもよいと思えるくらいでした。競技の中にありながら、競技ではないもっと別のものに触れた気がしています。勝負や貴賎といった二元論は打ち砕かれて、OnenessやWholenessというものを深い海の中で感じることができた105mダイブだったと思っています。


 

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プロフィール

篠宮龍三
篠宮 龍三.
しのみや りゅうぞう


フリーダイバー

AIDAマスターインストラクター

写真家



2004年 日本人初のプロ選手となる。

2005年 世界ランク1位入賞。(フリーイマージョン種目)

2005〜2007年 国際大会三年連続総合優勝(エジプト、フランス、エジプト)

2008年4月バハマにて、アジア人初の水深100mに到達。世界ランク2位入賞。(コンスタント種目)

2009年4月にはジャック・マイヨールの自己最高記録の水深105mに到達。同年12月には水深107mのアジア記録をマークし、マイヨール越えを達成。(コンスタント種目)

2010年4月にはバハマにて水深115mの現アジア記録を達成。(コンスタント種目)
同年7月は自らオーガナイザーとなり沖縄で世界選手権をアジア初開催。また日本代表キャプテンとして参加し、銀メダル獲得。

2013年5月カリビアンカップにて水深56mのコンスタントノーフィンのアジア記録更新。同年10月バリ大会にてコンスタント種目優勝。

2014年12月バハマ大会にて水深66mのコンスタントノーフィンのアジア記録更新(通算37個目のアジア記録)

2015年4月バハマ大会にて総合準優勝。アジア人男性初のメダル獲得。

国内初のプロ選手として国際大会を中心に参戦。2016年10月、18年間の競技生活に幕を閉じる。現在は沖縄でスクールや海外ツアー、大会等を運営する。

OneOceanを自身のメッセージに掲げ、海洋保護を訴えるイベントをプロデュースしている。

本の紹介
素潜り世界一
心のスイッチ
ブルー・ゾーン